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定年を迎えた30回目の結婚記念日 | 寿司ネタ 三笑

定年を迎えた30回目の結婚記念日


今年、旦那が25年働いた会社を定年退職した。
毎朝7時に自宅を出て、夜8時に帰宅。

すぐに夕食を食べ、風呂に入りテレビをつけながらうたた寝をし、11時に就寝。
私は土日もパートへ出ていたので、夜リビングにいる旦那とキッチンにいる私にはとても距離のある25年間だった。

子供達がいたころは共通の話題もあったが、みんな結婚して家を出てからはほとんど会話もない。

冷たい夫では無かったが、特に積極的にコミュニケーションをとる方でもなかった。



定年後の会話のない夫婦の話題を、お昼のワイドショーでよく見ていたが、今自分たちがその立場になっていることに最近になってやっと気がついた。
とはいえ、なかなか25年のブランクを埋める方法は見つからない。

主人が見ているテレビを一緒に見ても、お互い何か見たいものがあるわけでもなく盛り上がらない。
距離を縮めるというのはなかなか難しかった。

そんなある日の朝、突然長女からの電話。



「今日、ママたち結婚30周年って知ってた?」

結婚記念日なんて子供達が生まれてから一度も考えた事がなかった。

「30周年ってすごくない?おめでとう!ってことで、贈り物したから今日中に食べちゃってね!意外と簡単らしいから!午後いちで指定しているから午前中のうちに日本酒二人で買ってきてよ!パパに変わって!」

日本酒?なぜ?よく分からない。
主人は電話に変わるともの静かにうん、うんと返事をしたあと、どこに行けばいいんだ?と訪ねていた。

電話を切ると主人が私を見た。

その時、久しぶりに目が合った気がした。

「寿司に合う日本酒買いにいくか」

と主人。

なんだかふわふわした気持ちでとりあえず出かける準備をした。



久しぶりに主人と外を歩く。
家から徒歩5分ほどの酒屋についた。
主人が先に店に入り、私もそそくさ入る。
なんだか、テコテコ男性について歩いていた若い頃を思い出し、照れくさくて背筋を伸ばした。

主人が店員にお寿司にあう日本酒はどれかと訪ねる。
ポカーンと口を開けている自分に気がつき、慌てて「主人とお酒を買いにきたきれいめな妻」という顔をしてみせた。

帰り道、「ちょっと寄っていいか?」と主人はコンビニの前で立ち止まった。
私はまだ非日常な感覚のまま「ええ」という。

主人はコンビニでさきイカを買った。「おつまみ?」と聞くと、「醤油に入れるといいらしい」と答えた。
何の事だかよく分からなかったけど、「明日晴れ?」とか「爪切りは?」という、いつもの言葉とは違う質問を出来たのが少し嬉しかったので満足した。

帰宅後、昼ご飯の準備を始めた。
おそらく結婚して初めてだが、主人とキッチンにたっていた。
主人は、なにやら酢飯を作りたいらしい。
ご飯ジャーに酢を入れようとしたので慌てて止め、普通にご飯を炊いてもらった。

お昼を食べて数分すると、荷物が届いた。
「おふたりの第二の旅路祝福セット」と書いてある。
主人が笑う。私も笑った。

ちょっと照れくさかったのだ。

そこから、二人でお寿司をにぎりはじめたのだが、あーでもないこーでもないと、沢山話しすぎてどんな会話をしたか覚えていない。
あっというまで、とても楽しかった。



昔、お客様が来たとき用にと買った大きなお皿を取り出す。
結局親戚宅には訪問する側だったし、自宅に友人を呼ぶほど社交的な夫婦ではなかったため、過去1度、旦那の両親が来たときにだけ使ったもの。

思い出話がはじまる。

私がいつかの景品でもらったとっくりとおちょこを探す。
主人が出来上がったお寿司をテーブルまで運ぶ。

そのとき、テレビのリモコンをテーブルの下に避けたのが嬉しかった。

食事の準備が出来たのでふたりでテーブルについた。
テレビのついていないリビングが静まり返っていることに気づき、ちょっと緊張する。

何か会話をしなければ!と少し私が焦っていると
「記念日おめでとうございます」
と言って、とっくりを持ち、おちょこを渡してきた。

私も
「おめでとうございます。」
と言って、生まれて初めて主人にお酒をついでもらった。